TED Talk:「どーせ無理」と言わないおっちゃんとシェアリング・エコノミー
このサイトを始めて改めて実感したのは、自分がどれだけ多くの人に助けられているかという喜びと感謝、同時に、未知に挑戦する不安に対して、結局は自分ひとりで戦わなければならないという事実だ。この辺の感情をシンプルに書こうとするとありきたりで安っぽくなるし、詳しく書こうとするとくどくなる。僕はそのさじ加減があまり得意ではない。とにかく今は、不安だからこそ人の親切が身にしみるし、人の親切に触れると、「中途半端な自分ではその恩に報いることができないかもしれないのではないか」という不安にさいなまれるという、矛盾を抱え込んだ状態だ。ちょっと前に書いたことといきなり違って恥ずかしいんだけど、不安にとらわれている時にブログを書いたりすることはできないという当たり前の事実に免じて許して欲しい。大抵の場合は楽しんでいるという言葉にウソはないんだけど、ふと我に返って、自分がさっきまで楽しく遊び回っていた目の前に、暗くて深い穴がぽっかりあいているのに気が付き、恐怖にとらわれる瞬間があるのだ。その一瞬の時間も、その中にいる人だけにとっては実際よりも何百倍も長く感じられる。永遠に続きそうな一瞬の中、楽しんでいた分と同じだけ、その穴が同じだけ大きく、深くなっているような恐怖が背筋を通り抜ける。そんな時、僕は身がすくんで動けなくなってしまう。
だから、友人がfacebookでシェアしていたこのTEDトークを見た時は、大げさではなく魂が震えるほど感動した。このさえない見た目のおっちゃんが、僕と同じような孤独と戦い、そして同じ孤独と戦う仲間に、文字通り真剣に、魂の一番深いところから語りかけてくれているような気がしたのだ。おっちゃんの言葉の書き起こしに、小学生並みの感想を数行ずつテンポ良く付け加えるだけで、自分のコンテンツみたいな顔をして紹介するようなまねはしたくないので、とにかくまずはビデオを見て欲しい。言うだけ番長の僕と違って、このおっちゃんの言葉には何かを成し遂げた男の重さがあるから。TEDは割と好きでいろいろ見てるけど、ひょっとしたらこれまで見た中でもベストかもしれない。とにかく、おっちゃんの全ての言葉が胸を熱くした。なにげにトークうまいし。
僕がこんなことを言うのはおこがましいけど、おっちゃんは僕と同じものを目指しているのだと感じた。おっちゃんの手段は宇宙開発だったけど、僕の手段は、人と人がお金以外の動機(そこにお金がついて回ることは否定しない)で、お金では実現できない価値を共有できる、シェアリング・エコノミーなのだ。そしてOmiyaget.comは、僕にとっては、飛ぶかどうか分からない最初のロケットだ。
奇しくもおっちゃんは、そのTEDトークの中で、シェアリング・エコノミーにも通じるアイディアを何度も口にしている。
実はお金ってたいしたことないんです。だって、お金が必要な夢とか「お金がないと無理だぁ!」っていう夢、それは実は誰かがしてくれるサービスに過ぎないんです。これを待ってるだけの話なんです。そして自分ができなければできないほど、してもらうしかありません。ってことは、生きてくためにどんどんお金がかかってしまうということなんです。ところが自分ができると、できることがあればあるほど、それはしてあげられるから、仕事になるかもしれないっちゅうことなんです。
僕たちは誰もが、必ず他の誰かの役に立つ能力を持っている。かつてはそれを見つけることは難しかった。「自分のできること」と、「誰かの夢(というほど大げさなものではなかったとしても)」を瞬時にマッチングできるネットの力は、使い方さえ間違えなければ、世の中を良くする強力なツールになるはずだ。僕は、それこそがシェアリング・エコノミーの持つ最大の魅力なのだと信じている。ひょっとしたら、お金なんていらない。僕たちは、自分のできることを必要としていて、自分が必要としているものを持っている人さえ、見つけられればいい。
おっちゃんはこうも言った。彼が「お金がなくて諦めようとしていた」教授に対して、「僕はお金があった」と言わなかったことにも注目して欲しい。
でも神様がいたんです。神様が北海道大学の永田教授に会わせてくれました。永田教授は奇跡的に、安全なロケットの研究してました。そして奇跡的に、お金がなくて諦めようとしていました。僕はお金がないけど、物がつくれるんです。そんなふたりが出逢っちゃったんです。以来僕は、人の出逢いには 意味があるんだなと思うようになりました。神様があんたとあんた逢いなさいって、逢わせてくれてるんです。(中略)僕と永田先生は助け合えたんです。なぜならば、ふたりとも足りなかったからなんです。実は人は足りないから助け合うことができるんです。足りてたら人の助けなんか 必要ないじゃないですか。人は足りないから助け合えるんです。だからこそ、足りないことをバカにしちゃいけないんです。
彼がロケットを研究している教授と出会えたのは、ただの幸運だったのかもしれない。大げさかもしれないけど、僕はそんな幸運をもっと多くの人にもたらすかもしれないツールを作りたい。それには、ただ海外のものを運ぶだけではダメだろう。
たぶん気づいている人はいないと思うけど、数日前、僕はあるひらめきがあって、facebookページの「ミッション」を書き換えた。このサイトを始めて以来、いろいろな人が、類似のアイディアから生まれたサイトを教えてくれる。自分のリサーチ不足が恥ずかしいくらい、既に沢山の人たちが同じようなアイディアの元ウェブサービスを開発していた。でも僕は、そのどれからも、僕が作りたいと思っているものと同じ臭いを感じなかった。それは数年前に、「もうそんなサイトあるじゃん」と教えて貰い初めてBUYMAを見た時にも感じたことだ。それがなぜか考えていた時に、僕は今までいまいちピンと来ていなかった「ミッション」が見えたような気がした。まだうまく言い切れていないのだけど、書き換えた「ミッション」を読んでみてもらえると嬉しい。
シェアリング・エコノミーの最大の特長は、ある行動や物質に内在する価値に隣接する、これまでは無駄になっていた領域に価値を与えられるところだと考えます。omiyaget.comの目的は、旅をもっと面白くすることで、商品や文化の交換を促進して、それに伴うモノの移動を効率的にすること、そしてその正反対の方向にも、価値を循環させることです。
モノを動かすことを便利にして、モノを動かした、ではなく、旅を面白くしたら、モノが動いた。モノを動かすことで、旅がもっと面白くなった。というのが理想の状態です。
サービスの軸がぶれそうなので今はあまり考えないようにしているのだけど、将来サイトで、モノだけでなく、スキルの移動ができるようにできたら素敵だと思っている。例えば、旅をしながら、各地でリクエストに応じて日本語を教えて回る、とか。そうやって、これまでに出会うことができなかった人やアイディアが、もっと出会えることを祈りたい。そして、おっちゃんの言う「だったらこうしてみれば」が、今まであり得なかった角度から届けられることを祈りたい。