DAY11: AIRBNB OPEN初日

Airbnb Open

帰国後すでに3週間以上たってしまったのに、ブログはやっと旅の中盤にさしかかったところだ。特に帰国してからの更新が遅くて、楽しみにしていてくれている人には本当に申し訳なく思っている。今回やってみて一番良かったのは、こんな僕のブログを楽しみにしてくれる人が想像以上に多かったことだ。友人の中に僕のこういう文章を喜んでくれる人もいるだろうとは思っていたけど、知らない人から嬉しい応援のメッセージを貰ったりすることまではあまり考えていなかった。何人かの人は、実際におみやげも購入してくれたり、ここからリアルなつながりも数多く生まれた。応援してくださっている方達、本当にありがとうございます。

こんなことを言うと偉そうに聞こえるかもしれないけど、僕の狙いは、ことの他うまくいっているとも言える。よく、人は商品を買うのではなく、ストーリーを買うのだと言うけれど、だとすれば最初から旅人のストーリー付きで手元にやってくるおみやげは、ただ店にならぶだけの商品より、ずっと魅力的に見えていいはずだ。僕のへんちくりんな店でおみやげを買ってくれる人がいるのも、僕がやっていることを「楽しい」と思ってくれる人がそれなりにいるからだ。10年ほど前まで、人々は有名人がコマーシャルで宣伝するモノばかり欲しがっていた。今は、CMよりSNSに投稿された友達(時には赤の他人)の「いいね!」に影響されてモノを買ってしまう時代だ。もしも自分の趣味と合う旅人が現地からストーリー付きで商品を紹介してくれるマーケットプレースがあったら、楽しいし、結構売れると思うんだけどなぁ。Airbnbのホストを続けてきて、これからますます国境を越えた人の行き来が増えて行くだろうと僕は感じている。人の行き来が増えれば、それに伴ってモノの行き来も増えるのは確実だ。そこに、これまでにはない形で海外の商品の需要が生まれるのではないかと僕は期待している。

Airbnb Openで数多くのホストにOmiyaget.comのことを話してきたけど、同じように感じている人は多いようで、この話をしたホストの全員が僕のアイディアに賛成してくれたのはとても心強いことだった。僕の中ではそこまでは当然のことで、このアイディアをどうやって形にするかが問題なんだけど、彼らの反応は僕が期待していた以上に好意的なものが多く、できれば今すぐそれを使いたい、どうすればサイトに登録できるんだ?とかなり前のめりに聞いてくれる人も多く、その度に、今はサービスの実験をしている段階で、ちゃんとしたサイトがないのだと伝えなければならないのは悔しかった。少なくとも、彼らにだけはサイトを使って貰えたらよかったのに、そう考えた時にふと気が付いた。Airbnb Openに参加するようなホストこそ、Omiyaget.comのターゲットユーザにどんぴしゃなんじゃないだろうか。Airbnbのホストは、常に海外からのお客さんを迎え入れている。自分自身旅好きで、海外を飛び回る人が多いし、何より、人とつながることが大好きな人たちなのだ。ゲストを受け入れる時は自分が欲しいモノのリストを、自分が旅行する時は自分が持って行けるモノのリストを見せられるようにするシンプルな仕組みだけでも、試しに使ってくれる人は多そうだ。去年のサンフランシスコでのOpenには1,500人、今年パリのOpenでは6,000人のホストが集まってきている、来年も参加者が順調に増えれば、かなり大きな分母のポテンシャルユーザとつながるチャンスがあるのではないだろうか、と。

僕がこの考えをハッキリと意識したのはAirbnb Open2日目、AirbnbのCEO、ブライアン・チェスキーと少しだけ話をする機会に恵まれた時なのだけど、その話は次に回すとして、まずは1日目の報告をしていきたい。

Airbnb Openとは

Airbnb Openは、年に一度開催されるAirbnbホストのためのカンファレンスだ。自宅にゲストを迎え入れるホスティングに役立つワークショップやセミナー、創業者や各部門のトップによる基調講演や、新機能の発表など、Airbnbが切り開いたホームシェアリングの最新情報に触れることができるのが参加者の得られる大きなメリットなのだけど、僕を含めた多くのホストが世界中からわざわざ集まる本当の目的は、他のホストと出会い、シェアすることの喜びを仲間達でさらにシェアしあうことにある。Openに集まるホストと話して強く感じるのは、Airbnbは単なるビジネスプラットフォームではなく、シェアリングエコノミーという新しい可能性を信じる勇気ある人たちのコミュニティであるということだ。

日本では「民泊」という呼び方で、一般人が旅館と同じようにゲストを家に泊めるという行為そのものばかりに注目が集まっているけれど、ことの本質は、自分の所有物や価値を他人とシェアすることで、これまでにはなかった新たな価値が生み出され、かつては思いもよらなかったような経済活動を呼び起こしているということだ。そして真に注目すべきなのは、その新しい経済活動が、企業や別の営利団体によるコントロールを経由せず、個人と個人の直接的なつながりにより創造されている点だ。Airbnbは、そのためのツールに過ぎず、その利用料としてホスト、ゲスト双方から支払額の一部を徴収しているだけなのだ。

この意味を取り違えると本質が見えにくくなるので、もう少しだけ掘り下げるが、Airbnbは僕たちホストが提供するスペースを商品として取引することで利益を上げているのではない。このことは同じくシェアリングエコノミーの代表格であるUberにも言える。これらの企業は、サイトに登録している個人間で直接取引を行うプラットフォームと、そこで実際に取引されるサービスの市場を同時に作り出してしまった。日本で「民泊」を語る際、既存の旅館業に与えたインパクトと、政府が推し進めようとする観光立国の行方、つまり「泊」の部分しか見えていない言説がほとんどだけど、Airbnbとシェアリングエコノミーが世界に与えた真のインパクトは、実は「民」の部分にあるということだ。

このことは、日本ではメディアだけではなく、自らホストをしている人でもあまり気が付いている人がいない。僕は神戸エリアのホストコミュニティのオーガナイザーをしているので、Airbnbから招待されてホストの会合(Airbnbやテック関連企業ではミートアップという言葉が使われる)に出ることが多い。そこで必ず出る要望は、法解釈が曖昧な現状、ホストがどうやってAirbnbを利用したらいいのか、また法律的にどこまでやって良くて、何をしてはいけないか、明確なガイドラインを示して欲しい、というものだ。そこに見えるのは、Airbnbという、海外からやってきた新たな「権威」に、正しいルールを与えて欲しい、きちんと自分たちを管理して欲しいという、古い家父長的価値観だ。

一方、Openで提供されるセミナーには、”How We Can Accelarate Governments Embracing The Right to Home Sharing”(どうやってホームシェアリングを推進するよう政府に働きかけられるか)というようなものまである。実際、「民泊」が一定の基準で合法化されている都市では、ユーザ主体で法整備に向けて働きかけた場所も多い。今回のヨーロッパ旅行ではパリの次に訪れるプランになっているバルセロナも、そんな都市の一つだ。去年のOpenで、バルセロナにおける「民泊」合法化のための運動を始めた一人のホストが壇上で表彰されていたのを覚えている。また、Open直前の11月頭にも、Airbnbの創業地サンフランシスコで、ホテル業界のバックアップにより「民泊」を違法化するProposition Fという条例が提出され、その是非を問う市民投票が行われたばかりだ。そこでもユーザが立ち上げた多くのボランティアグループが積極的に啓蒙活動を行い、サンフランシスコ市民が短期滞在者を自宅に泊める権利を勝ち取ることにつながった。シェアリングエコノミーの特徴の一つは、その根底にきわめて民主的な考えがあらかじめインストールされていることでもあるのだ。

Airbnb Openには、そのムーブメントの最先端として、個人の可能性を信じる様々な”Hostrepreneur”(Airbnbの造語で、「ホスト起業家」みたいな意味合い)が集まり、そこで一つのコミュニティを形成する。僕にとってAirbnb Openに参加する意義は、そのコミュニティで同じような考えを持つ新しい仲間と出会うことだ。今回その仲間にOmiyaget.comのアイディアを話すことができ、そこでかなり多くの好意的な反応と、いくつかの素晴らしいつながりを得ることができたことはとても大きな収穫だ。

基調講演

12日の午前中に行われた基調講演の幕は、パリのAirbnbホストからの歓迎メッセージとともに上がった。パリはAirbnb最大のマーケットで、40,000件以上のアクティブなリスティングが登録されているという。今回のOpen開催地がパリに決定したのも、当然のことと言える。パリの観光局長(記憶が曖昧になってしまったので間違っていたらゴメンナサイ)からの熱のこもったメッセージも届き、パリ側の気合いも充分といった感じだ。既存のホテル業界からの後押しもあり、住宅事情の悪化を理由にフランス住宅当局からの取り締まりが厳しくなったと言うが、パリ市にしても、Airbnbにしても、お互いの利害はがっちり一致しているといった雰囲気を醸し出している。規制は形式上のことなので、安心してくださいと言わんばかりだ。(実際には違反者は最大で25,000€=約350万円の罰金が科せられるなど、かなり厳しい規制が行われている)

基調講演ではサイトの新機能がいくつか発表されたが、ほとんどはホスト向けのものだし、たとえばAppleが新製品を出すようなインパクトがあるわけではないので、ここでは特に紹介しない。Airbnbにおける基調講演は、コミュニティの結束を高め、イベントを盛り上げるためのモチベーショナル・スピーチの意味合いが強い。僕も深く感銘を受けた、「Airbnb(のホスト)は、結局のところ人間は根源的に善であるということを証明しているのだ」というコミュニティの理念の中核をなすCEOブライアン・チェスキーからのメッセージが今年も繰り返され、聴衆の大きな喝采を浴びた。ここにいるほとんどの人は、この言葉を聞いたのは初めてだろう。きっと、去年の僕のように大きな感銘を受け「ひょっとしたらAirbnbは本気で世界を変えようとをしているのかもしれない」と考え始める人も沢山いるだろう。

(余談だが、僕はこのスピーチを聞いた後、Airbnbで働いてみたくなり社員募集に応募した。また別の機会にその話もしても面白いかも。オレが採用担当だったらオレのこと絶対採るんだけどなぁ。。)

人間の善、という観点では、Open基調講演でも再度アナウンスされたAirbnbの新プログラム「Open Homes」は特筆に値するかもしれない。Open Homesは、災害時などにAirbnbに登録されている”home”を必要とする人に解放しようというボランティアプログラムだ。Open Homesも、自主的にそういった活動を始めたホストの声を受けてAirbnbが組織化したユーザー主導のプログラムで、実は僕もこの運営委員の末席を汚している。Openでは他のメンバーと初の顔合わせをすることができた。DAY11-13:PARIS ~AIRBNB OPENで紹介したメールを送ってくれたのも、このメンバーの一人だ。こういう人たちとの出会いが、Airbnbの、シェアリングエコノミーの最大の魅力だとつくづく思う。

Beyond Hosting: Airbnb & The Sharing Economy

シェアリングエコノミーに関するセッション(「ホスティングを超えたもの:Airbnbとシェアリングエコノミー」)は、僕が今回のOpenで最も楽しみにしていたものだ。というのは、去年のオープンでは、Airbnbの創業者の一人、ジョー・ゲビアや、シェアリングエコノミーの研究者、それからWalmartやメルセデスベンツを始めとする大企業にシェアリングエコノミー時代における戦略をアドバイスするコンサルタントなどによるパネルディスカッションが行われ、そこでシェアリングエコノミーに関する多くの知見を得ることができたからだ。このディスカッションについてもまたの機会を見て紹介したいが、英語が分かる人はYouTubeにその時のビデオがアップされているので、是非視聴してみて欲しい。

今年のシェアリングエコノミーセッションでは、残念ながらそこまで突っ込んだ話は聞くことができなかった。ある意味では、その意義を一から振り返らなくてもいいぐらいに、シェアリングエコノミーのアイディアが一般的に浸透したということでもある。「シェアは新しい考えではない。」サンフランシスコやアムステルダム、ソウルなどの行政や数々のスタートアップ企業に対するシェアリングエコノミーアドバイザーを務める”シェアリングエコノミー・エキスパート”April Rinneは言う。シェアリングエコノミーは、産業革命以降際限なく広がっていった大量生産・大量消費・大量廃棄の社会を元の方向に戻して、幸福の意味を再定義しているのだと。

セッションでは、モノを独占的に所有することより、モノが提供する価値や経験にアクセスし、共有することに重点を置くシェアリングエコノミーには「経済」「環境」「コミュニティの創成」「利便性」の価値があるとして、それを推進する世界各国のシェアリングサービスや、新しい取り組みが紹介された。すでにかなり長くなってしまったので、このセッションで取り上げられた事例の紹介は次の記事に回そうと思う。

VizEat

この日の夜参加ホストはいくつもの小さなグループに分かれて、ホスト仲間との会話と食事を楽しんだ。地元ホストオススメのレストランの食事か、ホスト自宅で振る舞われる手料理を選ぶことができた。一緒に旅していた娘がそろそろ日本食を恋しがるころなので、僕たちはヘルシーなフュージョン日本料理を得意とする日本人ホストの家を選んだ。地元在住の料理自慢の手料理は、VizEatという別の料理マッチングサイトのサービスを利用して選ぶことができた。VizEatはレストラン版Airbnbとも言えるサービスで、Airbnb同様自分が手料理を食べたいエリアを入力して検索すると、そこで提供される料理の写真と料理人の顔アイコン、評価が地図上のピンに対応した形で表示される。同様の食事マッチングサービスは「Feastly」「EatWith」など数多く、これから世界的に流行していくサービスだと思う。去年Airbnbも手料理マッチングサービスのテストを始めているなんてニュースもあったみたいだけど、どうなっているのだろうか?今回はVizEatと提携することになったのか、それともVizEatそのものが、Airbnbのステルスサービスなのか、それともそのニュース自体が誤報なのか。とても気になるところだ。ちなみに、料理マッチングサイトはホリエモンも注目しているらしいっすよ。

→VizEat.com

ここで出会ったホストにも、Omiyaget.comのコンセプトは好評で、特にサンフランシスコから来たKendallとPatriciaは、テロで外出禁止になっているにもかかわらず、僕がパリ滞在中に予定していた船上ガレージセールはやっているのか連絡をくれるほどだった。(僕はパリではセーヌ川に浮かぶハウスボートに滞在していて、そのデッキで日本から持ってきたおみやげを販売するつもりだった。残念ながらその前日に起きたパリ同時多発テロのせいで、ガレージセールは中止となった。)彼らとはその後バルセロナでも再会して、一緒にタパスを楽しんだ。帰国後もメールのやりとりをしているので、またきっとつながることがあるかもしれない。どうでもいいけどKendallはハリソン・フォードそっくり。自分でもちょっと意識してるっぽい。

1日目の様子は、こんなところだろうか。それぞれの段落だけで記事がいくつもかけるほど充実した一日だったけど、それはおいおい公開していきたい。次回は、シェアリングエコノミーセッションで話題にのぼったサイトを紹介していきたいと思う。