Backpack:競合サイトのこと
僕はかなり長い間、このサイトの準備をひっそりとやっていて、ある程度の形ができるまでは表に出さないつもりでいたんだけど、ここに来てこのような形でサイトを公開したのにはいくつか理由がある。
一つは、海外のスタートアップ(少人数のチームでスピーディに新しいウェブサービスを開発・公開する手法)でやるように、開発チームを先に集めた状態でスタートすることがどうやっても難しそうだということだ。ここ2年間ぐらいの間で、僕のアイディアをうまく形にしてくれそうな何人かのエンジニアと組ませて貰ったのだけど、どうしても途中で本業のプロジェクトが忙しくなって、活動が休止してしまう。みんな僕のいい友人だし、実力も人間性もすばらしい人たちで、彼らと一緒にサービスを形づくることができたらそんなに嬉しいことはない。でも、僕が頼れる知り合いはみな、この世界でそこそこの責任と地位を持っている実力者たちなので、僕のような半ニートみたく、ふらふらしているわけにはいかないのだ。そんなこんなで活動が停滞してしまうと、相手の方でも気を遣って、他の人を探して進めた方がいいよ、ということになってしまう。
僕は本当に気が合って、このアイディアに本気で乗ってくれる人としか組みたくないという贅沢者なので、他の人を探すのは当然難航する。しかも現実にこのプロジェクトを手伝って貰える人となると、今の状況だと見つけることはほとんど不可能に近いだろう。それでも、僕は新しく知り合ったり、人に紹介して貰った人で「この人は」と思える人にはどんどん声をかけて、チームに入ってまでは貰えなくても、いろいろ話を聞いて貰っていたりし続けていた。そんな中、ここ数ヶ月で数名の人から立て続けに、とにかくブログでも何でもいいから、まずは自分のできる範囲で実験を開始するのがいいよ、というアドバイスを貰い、ぼんやりと可能性を考えていながらもあくまで最後の手段にとっておいていた、今のサイトのような方式を実行に移すことに決めた。僕ができることは少ないけど、wordpressとプラグインで、なんちゃってomiyaget.comだったら作ることはできる。それが、同じような考えの、ちょっとアナーキーで、かつファンキーなプログラマーの目にとまるよう祈りながら作っているこのサイトだ。できれば自身が旅人だったり、もっと言っちゃえばBurnerがいいんだけど、それはちょっと贅沢言い過ぎか。
もう一つの理由は、そろそろ競合サイトが実際にいくつか立ち上がってきたことによる焦りだ。いや、別に焦ってはいないんだけど、やっぱ気にはなる。僕は自分自身がこのアイディアの大ファンなので、いつか誰かがこれに似たようなことをやることは分かっていた。まあ、ここまでにオープンした類似アイディアのサイトは、どこかコンセプトがぼんやりしていたり(失礼)、僕の考えとはちょっとノリが違うサイトだったので、そこまで意識することはなかったのだけど、「あの」Yコンビネーターと元googleのスタッフが支援しているというBackpackの存在を知った時は、さすがにちょっと相手の大きさに息をのんでしまった。しかも、核になるアイディアだけでなく、コンセプトも僕の考えとかなり近く、それを高いレベルで実現している。スゴイ!
欲しい薬が国内で手に入らず、個人で輸入するには非常に高くついてしまうようなケースがある。そうしたとき、その商品を扱っている国に渡航する人に頼んで買ってきてもらったりすることはよくあることだ。話は薬に限らず珍しいハムや、あるいは場所によってはiPhoneなどが対象となることもあるだろう。こうした仕組みをシステマティックに行おうとするのがBackpackというサービスだ。商品を手に入れたい人と、商品を安く運んでくることができる旅行者を結びつけようとするサービスだ。
このBackpackは、Y Combinatorが支援するスタートアップで、購入者は海外製品を安く手に入れることができるようになる。購入者は商品を持ってきてくれる旅行者に手間賃を含めた代金を支払う。
クスリと珍しいハムだとか、例えはちょっとなんだかよくわからないけど、要は僕と全く同じアイディアによる先行サイトが、既にあるということだ。しかもYコンビネーターと言えば、Airbnbもその支援を受けその成長を大きく加速させた、シリコンバレー最大のベンチャーキャピタルにして、最強のスタートアップ支援スクールだ。僕のように、スタートアップのことはさらっとしか知らない人でも、ウェブ界隈の人であれば必ずといっていいほど知っている、まさにスタートアップ界の巨人なのだ。もう、常識的に考えたら、僕では全然勝負にすらならない。
このサイトを知った時、僕は一瞬だけどショックで本当にぼーっとしてしまった。正直やっぱちょっと自分はあきらめようかな、なんて考えも頭をよぎった。だけど、これまで力になってくれた人に(その人たちの協力を取り付けるためにも)結構でかい口叩いてしまっていたし、サイトも仮のものとは言え、公開してしまったばかりだ。今やめてもダメージは少ないけど、ちょっと情けなくて後には引けない。考えようによっては、これは僕にとって追い風だととらえることもできるのだから、と思い直して、ブレーキではなくアクセルを踏むことにした。まあ、車に例えるなら、向こうはなんかワイルド・スピードに出てきそうなマッスルカーなのに対して、僕の車は子ども向けのおもちゃの電動カートみたいなものなので、アクセルベタ踏みしても歩いてるのとあんま変わらないんだけど。(妄想の中ではマリオカート)
今まで人にこのサイトの話をすると、反応は本当にくっきりと2パターンに分かれていた。たぶん、それはユーザ視点で「そのサイトがあったらすぐ使いたい!」と言ってくれる人と、開発者視点で「やりたいことは分かったけど、リソースをさくだけの実現可能性と、価値はあるのか」と考える2タイプだったのだと思う。たまに、ホントに「ふーん。今はアマゾンとかあって何でも買えるし、わざわざ使う人いないんじゃない?そんなのうまく行かないから考え直した方がいいよ。」みたいな、大変正直な反応を貰うこともあったけど、そういうのは脳内から抹消することにする。さて、僕はついつい前者のタイプと話がしたくなっちゃうけど、これまで僕の気が付かなかったいいアドバイスをくれていたのは、後者の人たちだ。最初からアイディアを理解して、乗ってきてくれる人がくれるアドバイスは、当然既に自分も考えていた内容が多い(だからこそ妄想話が盛り上がって楽しい)のに対して、後者のタイプは僕があまり考えたくなかった部分を指摘してくれる。ただ、後者のタイプがやっかいなのは「このアイディアに可能性がある」と思ってちゃんと話を聞いて貰うまで、割と理屈を積み重ねる必要があるのだ。僕はそれが苦手だ。やればなんとかできるんだけど、めんどくさい。でも、これからはBackpackのおかげで「あのYコンビネーターも全く同じアイディアに可能性を見いだして、こういうサイトを支援している」のひと言が、開発者的な後者の疑問をかなりのところまで氷解してくれるだろう。自分のアイディアを語るのではなく、人のアイディアを例に出して「これと同じことがしたい」と説明するのはちょっと悔しいけど、今ないものを人に説明するより、あるものを説明する方がずっと楽だ。それに、さっきはつい抹消してしまった否定的な反応や、もっと言えば自分自身の自信のなさにも、このサイトの存在は有効な反証になるように思う。僕みたいな訳分からない奴じゃなくて、「スタートアップ界の巨人」だって乗っかっているんだから。
もう一つ大きいことは、すでに先行サイトが存在することで、誰かが「僕の」アイディアをパクる心配が無くなったことだ。いや、本当はこれが誰のアイディアであっても、それが理想に近い形で現実になれば別になんだってかまわないのだけど、僕が生意気にも心配していたのは、このアイディアの本質を本当に理解してんだかなんだかよく分からない企業だとかが、表面的な部分だけかっさらって、なんとも残念な形で僕よりも先に「実現」してしまうことだった。だからこそ、リアルでつながりのある人たちとだけ、ある意味慎重にことを進めてきたのだけど、これからはその心配はない。たぶんこのアイディアの理想型を実現するのは、僕でなければ彼らだ。みんながアイディアをパクろうとするのも。実際まだ現在のBackpackは、僕が理想だと思えるようなサイトではない。彼らもまだ、自分たちのアイディアを半分も実現していないだろう。でも現時点で、すでにBackpackはかなりパクリ甲斐のあるサイトとして完成している。だからこれからは、パクられるのを心配していくのではなく、同じアイディアを持つ先行サイトに敬意を払いつつ、参考になるところはどんどんパクって行こうと思う。既にBackpackにも登録済みなので、可能だったら同時にそっちの使い勝手もレポートしていきたい。