DAY6:AMSTERDAM TO LIEGE〜ブレークスルー

belgium

アムステルダムが楽しすぎて、いきなり日程を変更してしまった。本当は一昨日ベルギーに向かうはずだったのだろうか。アムスではいろいろな事がありすぎて、一体自分が何日いたのかも分からない。まあ、とにかく僕はアムスを満喫したってことだ。

まず、何がよかったって、アムスで泊まっていた場所が最高だった。僕はまだ日本で、というか世界でもあまりAirbnbが知られていないころからのユーザーなんだけど、これまで世界中で滞在したどの家よりもユニークで、Airbnbが旅を、もっと大きく言えば世界をどれだけ変えたかを示す見本のような場所だった。こんなところに泊まることができるなんて、ちょっと前まで考えることさえできなかった。

facebookページやinstagramを見てくれている人は写真を見ていると思うけど、僕がアムスにいる間滞在していたのは、1674年に建てられた風車小屋だ。年数は正確に覚えていないけど、レンブラントが亡くなった5年後と言っていたから、興味がある人がいたら調べられるだろう。

Airbnbでどこかに滞在する時は、物件オーナーから道順を示したメッセージが送られてくるんだけど、その指示が傑作だった。「空港からどこどこ行きのバスにのって、なんとかというバス停でおりろ。風車が見えるからそこまで歩いてこい」僕はiPhoneにキャッシュされたそのメッセージを見ながら、空港から地元路線のバスにのって、そこがどこだかまったく分からないバス停で一人バスを降り、遠くに見えるはずの風車に向かって重いスーツケースを転がしたのだ。バス停に到着したころはあたりは真っ暗で、遠くに見えるはずの風車は影も形も見えなかった。

僕は今日の宿がこの公園であることを覚悟して(風車は公園のような場所の中にあった)どうせ野宿するなら少しでも安全そうな場所を探しながら、風車があるはずの方に歩いていった。僕らが現実と呼んでいる世界で5分ぐらいたったころだろうか、様々な思考が頭の中で目まぐるしく駆け回り、それがそろそろ一旦落ち着いてきた。多少の冷静さを取り戻して、これが本当に正しい方向かもう一度確認しようと視線を投げた先に、暗闇にとろりと溶け出す暖かな窓灯りを見た。

暗い森で迷子になって、ようやく灯りを見つけた昔話の主人公たちはこんな気持ちだったんだろうな、というくらいの嬉しさだった。重い荷物をその場に残し、風車の周りをぐるっと一周したところ、ホストのRoelが僕に気がついて扉を開けてくれた。風車小屋の中は、まさに別世界だった。多分、この小屋だけで写真集が一冊できる。天井で交差する太い梁から、白よりくすんだクリーム色に近づきつつある壁に残された引っ掻き傷、窓の外に見える風車の方向を変えるための巨大なハンドル、どこを見てもそこに生きてきた人間の歴史と、それが残したかすかな暖かさが見てとれるのだ。

これだけでここへの滞在を延ばすことに決めるのに十分なぐらいだったけど、アムスが本当に最高だったのは、そこで出会った沢山の人達だ。Roelとは毎日、一日の始まりと終わりに、僕が見たもの、聞いたもの、または買ったり売ったもの(そう、僕はアムスで初めて日本から持ち込んだものを売ることができたのだ!)をネタに、社会や宗教、哲学や芸術まで、思いつくことを何でも話した。僕もよく分かるんだけど、Airbnbのホストをしていても、大抵のゲストは自分達で行きたい場所があったりするため、行って帰ってになってしまう。旅の最中ここまで深く会話ができる人は意外と少ないのだ。その代わり、こうやってちゃんと意味のある時間を共に過ごしたゲストとホストは、ある特別な結びつきができる。多分Roelとはそう言う関係になれるだろう。現実に、僕はomiyaget.com以外にちょっとバカげた、でも実現したら面白いことになりそうなビジネスの提案をして、彼も自分の判断でいつでもそれを止められるのであればという条件で乗ってくれている。こっちはこっちで楽しみなので、関係がありそうな人には後日声を掛けさせてもらおうと思う。

さて、この風車小屋では他にも素敵な出会いがあった。滞在二日目、フランスからRoelの風車小屋にやって来た、FloとIsabel という二人組の女の子だ。特にFloとは、なぜだか分からないけどよく気があって、僕はすっかり彼女たちが好きになってしまった。まあ、ちょっと酔っぱらっていたせいもあるんだけど、彼女たちにはサイトの商品ただであげてしまった。ちょっとルールから外れるような気もして、一瞬躊躇してしまったんだけど、彼女たちの笑顔を見ていたら、そういうのは関係なく、ただプレゼントしたくなったのだ。

自分がハマっていた大きな勘違いに気がついたのはその時だった。このサイトに関して僕がいろいろな人に言われていて、自分でもその答えに自信が持ちきれないでいたことの一つに「旅人が持っていける荷物の量なんてたかがしれている。だから、このサイトでものが売れても、よほどラッキーでないと微々たる金額にしかならない。人は、そんな小銭のためにわざわざそんな面倒なことをするだろうか」という問題があった。その問題について考えれば考えるほど、その当たり前の問いに紛れて僕の思考に入り込んでいた、間違った前提に気がつかなくなっていた。

このサイトは、そんなはした金を旅行中にまで必死になって稼ごうという人のためのものにしなくたっていいのだ。それなのに、僕は、この実験旅行を計画してからずっと、どうやったらこの旅行中に一円でも多くの売上をあげて、そういう人達にアピールできるかに必死になってしまっていた。でも、それは違う。お金を儲けるのを第一目的にしてしまったら、それはこのサイトだけでなく旅そのものまでつまらないものにしてしまう。僕は、このサイトで、旅から今までは得ることのできなかった何かを得られるようにしたいだけで、それは別にお金でなくていいのだ。

それは、誰かの笑顔だっていいし、世界の裏側にいる、同じ趣味をもった新しい友人だっていい。その人が教えてくれた自分の好みにドンぴしゃのニューアイテム情報だっていい。とにかく、それによって自分がアガる何かであれば、なんだっていいのだ。僕にとってのそれは、今まで経験することが出来なかった、まさに今自分がやっているこんな旅だ。

こんな旅が面白いから、面白くなると信じていたから、金にもならないのに、わさわざ苦労を重ねてやっているんじゃないか。そして、その苦労に見合うだけの喜びをもうすでに沢山の人からもらっている。それに気がついた時、「あ、これは間違いなく成功だな」と僕は思ってしまった。思ってしまったけど、別にいいよね?だって僕は本当に嬉しかった。こんな旅の仕方、今まで出来た人はいなかったはずだ。

その小さな証拠の一つとして、僕が今これを書いている状況を説明しよう。僕はベルギーの名前も知らない街のアパートのソファに横になって、これを書いている。Liegeという街まで僕を迎えに来るはずだったbla bla carというライドシェアの車に置いてきぼりをくらった僕を助けてくれたのは、アムスで出会って初めて僕が日本から持ち込んだ商品を買ってくれた、issaという学生だ。

詳しい話は、また明日。